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傘をひらいて、空を
●07/30 14:03
2025-07-29私の小さいがじゅまるのこと二日間の小旅行から帰ると、がじゅまるが死んでいた。植物というのはこんなに見るからに「死んだ」状態になるのだなと、私は思った。もっとゆっくり死ぬものだと思っていた。二日前には枯れた葉を一枚取り、いつものように水をやって、それから出かけた。そのときはたしかに生きていた。私がそのがじゅまるの鉢を手に入れたのは十二年ばかり前のことである。大学の卒業を機に転居する先輩が食器やコーヒーメーカーをくれて、「ついでにこれをもらってほしい」と言うので、そのまま持って帰った。てのひらに乗る小さい鉢で、邪魔になるものでもなかったし。私は大学三年生の終わりで、本来なら就職活動をする時期だったが、その就職先が、徹底してなかった。「希望の会社に就職できない」という話ではない。求人がないのである。日本にはそのような何年かがあった。私はもともとフリーターのような学生だったので、「大学院に行けば時給が上がる」と聞いて行くことにした。時給が上がれば遊ぶ金が増える、と思った。私たちの世代の多くがそうであるように、私もまた、時代の犠牲者として前後の世代よりずっと職に恵まれなかった、それはまあそうなのだが、ただし、私という個体は、その中にあっても、あんまり将来のことを考えていなかった。貧すれば鈍するというが、私の場合は、大学入学の段階から貧していて、ずっと日銭を稼いで暮らし、その結果おかしな自信がついて、「どうあっても食ってはいける」「だから好きにやろう」と思うようになっていたのである。こういうのも鈍の一種だろうか。たぶんそうなのだろう。野垂れ死ぬ気はしなかった。がじゅまるは、そのような気分の象徴だった。わたしは自活をはじめた十八から二十一の年までは、自宅に決して生き物を置かなかった。自分ひとりをどうにかできないかもしれない、野垂れ死にするかもしれない人間が自分以外の生命をなぐさめにするものではないと、そう思っていたのである。今にして思えば肩に力が入っていて、ずいぶんと可愛らしい。その可愛らしさが変容したあたりで、その植物はやってきた。二十二の私は、野垂れ死ぬことへの不安を払拭していた。いわゆる将来への希望はないがそれを悲しいとも感じず、洞窟みたいな安アパートで寝て起きて何か食べていればそれだけでわりと幸せで、人に殴られたらすぐに殴り返せるよう無意識に準備している、そういう人間に仕上がっていた。荒野で暢気に暮らす原始人みたいだった。がじゅまるは私がそういう人間になったことの、しるしのようなものだった。しかし十年も経てば人間は「生き延びる」フェーズを終える。就職難は過ぎ去り、私も同世代の友人たちもそれぞれのタイミングで職を得る活動をし、それなりの待遇を得ている。もう「生き延びる」ではない。「生きる」、できれば「よりよく生きる」をやる時期である。私はその状況に対し、小さい不適応を起こした。状況にかかわらず生活をきっちりやるタイプだったのに、どうにもそういう気になれず、食事をおろそかにした。旅行先はどんどんマニアックな場所になり、一人旅が増えた。しょっちゅう引っ越しをし、窓を採寸してカーテンを作るのが面倒で掃き出し窓につんつるてんのカーテンをかけ、小窓は段ボールで塞いでいた。それからさらに十数年経った今からすると、そうたいした荒れ具合でもないと思うのだが、当時はそのような自分に狼狽したものである。がじゅまるが死んだのはそんなときだった。私は当時住んでいた自治体の規則にしたがってがじゅまるの本体と鉢をわけ、鉢を不燃ゴミに出した。本体は可燃ゴミである。最後まで、てのひらに乗る、小さい木だった。鉢を変えたら大きくなるのかなと思ったこともあったが、植え替えに失敗したら枯れるのじゃないかと思って、怖くてやらなかった。それはそれで寿命を縮めるかもしれないと思いながら、しなかった。がじゅまるはとても丈夫で、長く私の目を楽しませた。引っ越しのときにはいつも、ビニール袋に入れて手で提げて連れて行った。私はどんなに大切にしていたものでも、捨てると決まればそのままゴミ袋に入れていた。しかし、と私は思った。これは生き物だ。生き物が死んだのだから、宗教的な儀式をしたほうがよい。私はきれいな紙袋に枯れた木を入れ、リボンを巻いてラッピングした。可笑しくなってちょっと笑った。リボンは金色で、なんだかおめでたかった。その後、どうしてか私は、「よりよく生きる」をやろうとする自分自身と、うまく折りあいをつけられるようになった。kasawo 2025-07-29 19:00 読者になる広告を非表示にする私の小さいがじゅまるのこと

Silva Speculationis
●07/30 12:41
ミトラス教という謎2025年7月29日 sxolastikos井上文則『異教のローマ ミトラス教とその時代』(講談社選書メチエ、2025)を読んでみました。主にフランツ・キュモンの研究などで知られる「ミトラ教」(以前はそう表記することが多かったと思います)ですが、キュモンの説も今やすっかり古くなったのですねえ。多くの新たな知見が加えられ、塗り替えられていることを、同書で改めて知ることができます。https://amzn.to/458eCDVとくに興味深かったのは、ローマに広がったミトラ教は、東方起源とか少アジア起源というわけではなく、1世紀ごろにローマで、1人の解放奴隷が単独で創始した星辰宗教ではないかという著者の仮説です。そう考えることで、普及状況その他に合理的な説明がつくというわけなのですね。思わず唸ってしまいました(笑)。それとは別に、ミトラ教に言及する文献の数々がこれでもかというように、多々紹介されているのも読み応え十分です。ヘロドトスやストラボンなどの歴史家から、プロクロス、ポルフュリオス、プロクロスなどプラトン主義者たちまで、実に多彩な顔ぶれが並んでいて、個人的には、以前に少し思想史的に触れていたこともあって、どこか懐かしさのようなものすら感じられました。そんなわけで、これもなかなかの良書だと思いました。共有:クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます) XFacebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます) Facebookクリックして Pocket でシェア (新しいウィンドウで開きます) PocketHumanities1 2 … 327 次へ →ミトラス教という謎

The Passing − 書物について
●07/25 14:24
2021-03-19クロード・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』読書 人類 哲学 歴史 社会クロード・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』川田順三訳、中公クラシックス、2001年(原著1955年)過去を、現在は失われてしまったものとしてではなく、現在に広がっているものとして捉えるとき、構造が見えてくる。風景や地層のように地理的な広がりへと分散するその交換と変形が、歴史の構造であり、構造としての歴史だ。とはいえ、それを見抜く眼は忘却によってこそ鍛えられるという。「古びた経験に私が差向かいになれるのに、二十年の忘却が必要であった」とは、構造主義が記憶術ならぬ忘却術であることの謂いなのか。デカルトの二十年、ヴァレリーの二十年にも比すべき、レヴィ=ストロースの二十年だ。#レヴィ=ストロース #現代思想 #人類学passing 2021-03-19 00:00 読者になる読書 (253)書誌 (15)美学 (98)芸術 (97)吉田健一『時間』

檜山正幸のキマイラ飼育記
●07/19 06:00
2025-07-18圏論的構造のドリルダウン雑記/備忘簡単な呼び名・言い回しで実は複雑な内容を語っていることがあります。簡単な呼び名・言い回しを、ドリルダウン(だんだん詳細化する)方式で分析してみましょう。例えば「小さな圏の圏の2-圏」は、けっこう複雑な内容を表しています。$`\newcommand{\cat}[1…2025-07-17演繹とは何なのか? 計算可能な図式間関数雑記/備忘「判断的セオリーと判断計算」で紹介したコラリア/ディ-リベールティの論文 "Context, Judgement, Deduction" は、「演繹〈deduction〉とは何なのか?」をテーマにしています。「メリス/ジルバーガーの圏論的判断計算」で紹介したメリス/ジルバーガーの論…「属性付き2-グラフのスノーグローブ現象」に書いたように、属性付き2-グラフではメタ巡回〈循環〉的状況が生じます。しかし、これは困ったことではなくて、むしろ望ましいことである気がします。「属性付き2-グラフのスノーグローブ現象 // おわりに」より…圏論的構造のドリルダウン演繹とは何なのか? 計算可能な図式間関数

ララビアータ
●06/23 04:30
2025年06月22日トランプによるイラン空爆トランプによるイラン空爆については、さまざまの制約による我々の情報の乏しさにもかかわらず、およそ次のことは確実である。この攻撃が国連安保理決議や米国議会における議論や決議もなく行われた点で、「法の支配」に真っ向から違反した無法なものであること、イスラエルの戦争犯罪に加担するおよそ正義に反するものであり、トランプの打ち続く失政を糊塗するために中東の危機を演出するという、火事場泥棒的なきわめて不道徳なものであること。しかも、2018年いわゆる「イラン核合意」を一方的に破棄したのは、第一次トランプ政権である。今回のガザの大惨事に始まる一連の中東危機は、そもそもトランプ自身の失策の結果なのである。ガザでなされた大虐殺は、いかなる言い訳もできない正真正銘のジェノサイドであるが、アメリカはそれに加担して、必ずしも必要のない、しかもきわめてリスクの高い悪事に手を染めてしまった。それがいかに汚らしい残忍至極なものであるか、今更言い立てる必要もないが、いま強調されるべきは、それが国際安全保障にとっても、米国の国益にとっても、またユダヤ民族の存続自体にとっても、賢明なものでも、有益なものでも、見通しの明るいものでもないということである。それどころか、これほど不吉なものはまたとないくらいである。「法の支配」が、特に国際的紛争のさなかに、時としてほとんど無力なもの、列強のエゴイズムを粉飾するだけのものに成り下がることが多いことは重々承知の上で、そのように弱い規範さえ、それを無視するシニシズムが、いかなる悲惨を招くことになるかは、さまざまの歴史が証明している(とりわけフセイン亡き後のイラクや、タリバン追放後のアフガニスタン)。以前から国際法を無視し続けている世界の常習的無法者イスラエルはともかく、アメリカが無法者の仲間入りをしたことが世界に投げかける暗雲は、ことのほか深いと言わざるを得ない。easter1916 at 23:37|Permalink│Comments(0)│ │時局easter1916 at 04:20|Permalink│Comments(4)│ │哲学ノートトランプによるイラン空爆時局 (110)

読書猿Classic: between / beyond readers
●06/02 16:45
読書猿『ゼロからの読書教室』NHK出版2025/5/23刊行

狐の王国
●04/21 08:59
2025年春アニメ、32作品を1話チェックしてみた2025 / 4

R35な女子日記
●10/22 07:15
<(1)からの続きのあらすじ>脚本家ウン・アリヨンは女優シム・スジョンに痛烈な嫌がらせをしつつ、異母妹イエヨンの婚約者で新聞社テヤン日報の御曹司イ・ジュワンに接近。美貌と知性を備えたアリヨンは、ドラムも叩けるしダンスも上手で、イエヨンとは正反対の魅力をふりまいてジュワンを虜にします。イエヨンの子どもっぽいわがままっぷりがときにジュワンを辟易させていたこともあり、ジュワンは幼なじみのようなイエヨンで...

夏のひこうき雲
●03/28 08:52
夏のひこうき雲(ブログ移行中)読者になる

カフェオレみたいな日記   黒いのと白いのと甘いのと
●03/28 03:30
カフェオレみたいな日記   黒いのと白いのと甘いのと読者になる

読んだものまとめブログ
●03/28 01:18
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はるるの勝手に独り言
●03/28 01:06
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ひじる日々 東京寺男日記 ehipassiko!
●03/27 22:29
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yuhka-unoの日記
●03/27 20:16
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チョコっとラブ的なにか
●03/27 19:19
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