▽Gecko’s Eyes ●12/11 19:05 トランプ政権発足後1週間でアメリカのサイエンスに起きたことPosted on 2017/01/28, 00:00, by KASHIWAI, Isana最初に断っておいたほうがいいかもしれません。私自身は地球温暖化についてはIPCCと同じ意見です。つまり、地球温暖化はほぼ確実に起きていて、その原因は人為的なものである可能性が高いと考えています。その意味で気候変動に対して否定的なトランプ政権の方針には批判的です。以下の文章は、そういう視点で書かれていることに注意してください。*さて、トランプ政権の発足前、彼が大統領選に勝利したときから、サイエンスのコミュニティでは彼の科学政策を不安視する声がありました。そのひとつが気候変動の問題です(他にもワクチンの問題などがありますが、まだ噂レベルなので今回は触れません)。トランプ氏は選挙期間中から気候変動問題は存在せず、過剰な環境規制が経済を圧迫していると主張してきました(選挙期間中に「気候変動の話は中国のでっち上げだ」とTwitter でツイートして問題になったのを覚えている人もいるかもしれません)。しかし、気候変動が起きていることについてはほとんど疑いの余地がないというのが一般的なコンセンサスでしょう。そしてその原因についても人為的な影響がかなり大きいだろうというのが多くの気候学者の共通した意見です。もし、これに真っ向から反対する意見を持った大統領が生まれたら、アメリカの環境政策は、そして気候変動の研究はどうなるのか?また、アメリカの気候変動研究はその規模とクオリティで世界のトップレベルにあります。もし、その研究体制が弱体化することがあれば、世界の気候変動研究に大きな影響が出るかもしれない。これが世界中の気候学者たちが懸念していたことでした。そんな中、就任前の準備期間中に流れたニュースが関係者を震撼させます。それは米国環境保護局(US Environmental Protection Agency, EPA)の長官にオクラホマ州司法長官のスコット・プルイット(Scott Pruitt)氏を指名するというものでした。米国環境保護局は、環境規制の執行や気候変動に関する研究などを管轄する部局ですが、プルイット氏は、温暖化は排出ガスのせいではないという主張し、当の環境保護局の環境規制に対して、産業活動に対する妨害であるという理由で数多くの訴訟を起こしてきた人物です。つまり、環境規制を行う組織の長官に、環境規制の不要を主張する人物を任命したということになります。別の見方をすれば、その組織の敵対者をその組織の長に据えることで改革をもたらそうしているともいえるかもしれません。少々荒っぽいですが、それも一つのやり方です。その組織に敵対していた人物なら、その組織の改革すべきところを知り尽くしているでしょう。それを踏まえた上で、その組織がより良い方向へ向かうように改革を行うならば、素晴らしい人事にもなりえます。ただ、もちろんこれは諸刃の剣。毒が強すぎれば、組織そのものの根幹を破壊しかねません。そして、この1週間で起きたことは、その最悪のシナリオを予感させるものでした。皮切りは、1月20日の政権発足直後にリニューアルされたホワイトハウスのWebサイトから気候変動に関するページがなくなっていたことです(同時にLGBT関するページとスペイン語サイトが消えていました)。通常大統領が変わるとホワイトハウスのWebサイトがリニューアルされます。特に今回は、オバマ政権に批判的な立場として生まれた政権でしたから、前政権の色が消え、新しい政権の方針を打ち出したものにがらっと変わるのは当然と言えるでしょう。その意味で、このWebサイトのリニューアルは、就任演説に続いて新政権の方針を最初に垣間見られるものの一つといえます。そのサイトに気候変動の文字がない(LGBTもスペイン語もない)。これは関係者を不安にさせるのに十分な事実でした。これとほぼ並行して、小さな事件がSNSの上でも起きていました。就任演説があった20日の金曜日、アメリカ合衆国国立公園局(U.S. National Park Service)のツイッターアカウント(@natlparkservice)が、トランプ大統領とオバマ大統領の就任式の群衆の大きさを比べた写真をリツイート(他のユーザーのポストを引用)し、後にそれを削除、翌土曜日に不適切なリツイートがあったことを謝罪しました。そして、報道によれば国立公園局の上位機関である内務省から「月曜日に新しいガイダンスが出るまで、週末はツイートを控えるように」という通達が出ていたようです。確かに、多分に政治的な意味のある就任演説での群衆の比較写真を国立公園局の公式アカウントがリツイートすることが適切かというと疑問が残ります。しかし、トランプ大統領に反対する人々から見れば、この削除とそれに続く通達は検閲とも取れる内容でした。そして、明けて月曜日から、そうした嫌な予感が現実のものになったと思わせるようなニュースが次々と流れました。一つ目は、環境保護局に対して、研究資金援助と新しい契約を即時停止し、Webサイトから気候変動に関するページを削除するように命じたというものです(このWebページの削除については後に一時的に保留されました)。続いて、いずれも気候変動に関わりの深い環境保護局、内務省、保健福祉省、農務省に対して、メディアを含む一般向けの情報提供を一時的に停止するように箝口令を出したというニュース。これに呼応するように、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は以前から予定されていた気候変動と健康に関するカンファレンスを突然中止します。さらに、今後は環境保護局から発表される科学的な成果やデータについては、政府から出向した職員が事前にチェックするという方針が出されたと報じられました。当然ながら、気候変動の研究者を中心に大きな批判の声が上がりました。いや、まて、それは検閲じゃないのか?ホワイトハウスは政策に都合の悪い研究を潰し、気候変動に関する情報やデータなどを抹消しようとしているんじゃないか?そして、この政権の動きに対抗して幾つものプロジェクトが立ち上がります。一つは、Scientists’ March。トランプ政権誕生の翌日、1月21日にワシントンDCを中心に、米国および世界各地で女性の権利を訴えるために行われたウィメンズマーチに習い「科学的な成果やデータを政治的な意向で検閲すべきではない」と訴える研究者とそれに賛同する人々のデモです。もう一つはデータアーカイブプロジェクト。これは、政権によって気候変動のデータが消される前に有志によってアーカイブ化しようというもの。すでに全米各地でイベントが行われ、有志が集まってWebサイトやそこで公開されているデータなどのアーカイビングが行われています。このプロジェクトそのものは政権発足前から動いていましたが、ここに来てさらに大きな脚光を浴び、規模が拡大しています。さらに、キャンセルされたCDC主催のClimate & Health Meetingについては、元合衆国副大統領のアル・ゴアや共同主催者だった公衆衛生協会(APHA)などを中心に有志の手で同様の会合が開かれることになりました。Scientists’ March on Washingtonhttp://www.scientistsmarchonwashington.com/PPEH Lab | DATAREFUGEhttp://www.ppehlab.org/datarefugeClimate & Health Meetinghttps://www.climaterealityproject.org/healthSNS上でも更に事件が起こります。この箝口令に反対したバッドランズ国立公園管理局(ここは箝口令が敷かれた内務省の下部組織であり、就任演説の日に「間違ったリツイート」をした国立公園局に属します)のツイッターアカウント(@BadlandsNPS)が、猛然と気候変動に関するツイートをはじめました。そしてこれも程なく削除されて「なかったこと」になります。そして、これがきっかけとなって、箝口令が敷かれた組織に属する”反逆者”たちが政府組織の非公式アカウントを作り、気候変動とトランプ政権に対する批判を怒涛のようにツイートし始めました。彼らが本当に組織に属する人間なのかは確かめようがありません。でも、それらのアカウントは一日で数万というフォロアを獲得し、上のデータのアーカイブプロジェクト、研究者のデモ行進と一体となって一つのムーブメントになりつつあります。下は、箝口令に反対して立ち上がった主なTwitterアカウントを集めたリストです。彼らのつぶやきを見ると、彼らが何に怒り、何を憂いているのかの一端がわかるかもしれません。lizard_isana/resist on Twitterhttps://twitter.com/lizard_isana/lists/resistこれが、トランプ政権の発足から1週間で米国のサイエンスに起きたことです。こうやって改めて整理すると、新政権の移行時に、前政権の色を払拭して、新政権のガバナンスを強化しようとして暴走した、とも取れなくはない内容です。でもその一方で、政権の方針に合わない組織に対して、非常に強硬な姿勢を見せたともいえるでしょう。公約を守ろうとしているともいえますが、トランプ大統領に反対する立場からすれば、規制緩和のために都合の悪い気候変動という事実そのものをなかったことにして、関係者を黙らせようとしているように見えます。少なくとも、トランプ新政権は、最初の1週間で気候変動の研究者だけでなく、アメリカ中の(あるいは世界中の)研究者を敵に回しました。研究者というのは基本的にオープンであることを是とする人たちです。それはサイエンスそのものがオープンであることにその正しさの論拠をおいているからです。論文が公開され、データが公開され、その研究手法が明らかにされて初めて、誰もがその研究の妥当性を評価できます。とくに気候変動の研究は、全世界規模で長期間、広範囲に渡って継続的に取られた様々なデータを突き合わせて、ようやく何かが見えてくるという分野です。その意味では気候学はサイエンスの持つオープンさに支えられているといってもいいでしょう。そういう彼らに対して「口をつぐめ、政府のチェックを受けるまでは研究成果もデータも公開するな」といえば、怒るのは当然です。サイエンスをなんだと思っているのか?これからどうなるのかは現時点では誰にもわかりません。これが政権移行時の一時的な混乱なのか、あるいは強硬な姿勢をこのまま貫くのか。さらにNASAやNOAAのような他の気候変動を扱う機関へ波及していくのではないかと云う懸念の声も聞こえます(すでにNASAの気候変動部門を縮小して、地球観測はNOAAに集中させるという話も出ています)。いずれにせよ、発足からわずか1週間で、トランプ政権の強硬な姿勢は、アメリカのサイエンスにこれだけの波乱を巻き起こしました。具体的な施策が打ち出されるのはまだこれからです。この混乱はしばらく続くかもしれません。ReferenceRumours swirl about Trump’s science adviser pick : Nature News & Commenthttp://www.nature.com/news/rumours-swirl-about-trump-s-science-adviser-pick-1.21336Trump’s EPA Pick Doesn’t Agree With 97 Percent Of Climate Scientists | The Huffington Posthttp://www.huffingtonpost.com/entry/scott-pruitt-climate-cha