▽極東ブログ ●10/23 01:17 2024.10.23モルドバの欧州統合国民投票と大統領選挙2024年10月20日、モルドバでEU加盟の是非を問う国民投票と大統領選挙が同時に実施された。中央選挙管理委員会(CEC)の21日午前10時時点の暫定結果によると、EU加盟への賛成が50.16%、反対が49.84%という歴史的な僅差での賛成多数となった。投票率は51.67%で、総投票者数は156万2,238人に達し、前回2020年の大統領選第1ラウンド(42.76%)を大きく上回る市民の政治参加が見られた。国民投票は選挙人名簿登録者数の3分の1以上が投票し、その過半数が賛成票を投じれば承認される仕組みとなっている。CECの報告に基づき、憲法裁判所が10日以内に国民投票の有効性について判決を下すが、条件を満たしていることからEU加盟の方針を憲法に盛り込むことが承認される見通しだ。しかし、この結果は同時にモルドバ社会の深い分断を浮き彫りにしている。首都キシナウでは54.13%(36万1,786人)という高い投票率を記録し、都市部では概してEU統合への支持が強かったが、ガガウジア地域では94.84%が反対票を投じ、親ロシア派地域で独立を主張するトランスニストリア(沿ドニエストル)地域からは1万6,131人が投票に参加するにとどまった。この地域的な投票行動の違いは、国内の政治的・社会的な亀裂を如実に示している。投票プロセスを巡る対立と批判野党議員デニス・ウラノフを含む反対派は、この僅差の結果に強い疑念を示している。特に投票所の配置について、深刻な不均衡が指摘されている。モスクワにはわずか2カ所しか投票所が設けられなかった一方で、EU諸国やアメリカ、カナダには数百カ所が設置された。具体的には、イタリアには38カ所、フランスには42カ所、ドイツには35カ所の投票所が設けられ、これらの国々に住むモルドバ市民の投票機会が優先的に確保された。この配置の偏りは、EU統合に賛成する傾向が強い国外在住者を優遇し、反対票を投じる可能性が高い国内居住者や親ロシア派の在外市民を実質的に排除する効果があったとの批判が強まっている。特に、ロシアに在住する推定15万人のモルドバ市民に対してわずか2カ所の投票所しか設置されなかったことは、深刻な問題として指摘されている。投票の透明性に関する懸念も多数報告されている。選挙監視体制の面では、一部の投票所で反対派の監視員の入場が制限され、与党支持者のみが監視活動を行える状況が生まれた。また、投票所によっては、投票箱の予期せぬ変更や票の消失といった不正の疑いも報告されている。特に農村部での投票では、投票箱の保管状況が不透明で、夜間の監視体制も不十分だったとの指摘がある。ロシアの影響力と国際社会の対応ロシアの影響力も問題として浮上している。選挙期間中、ロシア系メディアを通じた組織的な偽情報キャンペーンが展開され、EU統合が国家主権の喪失につながるという主張が拡散された。また、ソーシャルメディア上では、EU加盟による経済的損失を誇張する投稿が大量に拡散され、市民の不安を煽る動きが見られた。これに対し、欧州議会は選挙の公正性確保のため、包括的な支援プログラムを展開している。具体的には、150人規模の選挙監視団の派遣、投票所スタッフへの技術研修の実施、サイバーセキュリティ対策の強化などが含まれる。また、偽情報対策として、ファクトチェック体制の構築や、市民向けのメディアリテラシー教育プログラムも実施されている。国際選挙監視団は、これらの問題について詳細な調査を継続している。特に投票所配置の不均衡、投票プロセスの透明性、情報操作の実態について重点的な調査が行われており、最終報告書では具体的な改善勧告が示される見込みだ。大統領選の展開と政治的対立の深化大統領選では、開票率99.32%の時点で、現職のマイア・サンドゥ大統領(行動連帯党:PAS)が42.31%、親ロシア派で元検事総長のアレクサンドル・ストヤノグロ氏(社会党:PSRMの支持を得る)が26.09%を獲得した。11人の候補者による激戦となったが、いずれも過半数には届かず、両候補による11月3日の決選投票に持ち越されることとなった。サンドゥ大統領は親EU路線を掲げ、汚職撲滅と経済改革を通じたEU加盟プロセスの加速を主張している。一方のストヤノグロ氏は、ロシアとの関係改善を重視し、急速なEU統合による経済的混乱を警告している。この対立は単なる政策の違いを超え、モルドバの地政学的立場そのものを問う争いとなっている。若者団体「勝利ブロック」のリーダー、ユーリ・ヴィトニャンスキーは、僅差の国民投票結果について「モルドバ市民のEU統合への準備が十分でないことを示している」と指摘。サンドゥ大統領の欧州統合ビジョンへの支持基盤は弱まっており、決選投票での勝利も予断を許さない状況となっている。今後の展望モルドバの国民投票の結果は、憲法裁判所の判断を経てEU加盟の方針が憲法に盛り込まれる見通しだが、この過程自体が新たな政治的対立を生む可能性がある。特に、僅差での可決という結果は、今後のEU加盟プロセスにおいて社会的合意形成の困難さを示唆している。地域間の意見の相違も深刻な課題となっている。首都キシナウと地方部、国内居住者と国外在住者、親EU派と親ロシア派との間の分断は、単なる政治的対立を超えて、価値観や文化的アイデンティティの違いにまで及んでいる。これらの分断を克服し、国民的合意を形成していくことは、今後のモルドバの重要な政治課題となるだろう。11月3日の大統領選決選投票は、こうした文脈の中で極めて重要な意味を持つ。サンドゥ大統領とストヤノグロ氏による対決は、EU統合の具体的なプロセスや速度、そしてロシアとの関係をどう再構築するかという根本的な国家の方向性を決める選択となる。国際社会も、この選挙結果がもたらす地政学的な影響を注視している。【参考】モルドバ、国民投票はEU加盟賛成が僅差で上回る、大統領選は決選投票へMoldova: Presidential elections and referendum on EU membership2024 Moldovan European Union membership referendumВ Молдавии результаты референдума назвали политическим мошенничеством2024.10.23 | 固定リンク«ペンシルベニア州が決定打となる2024年大統領選