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森沢明夫 「癒し屋キリコの約束」(幻冬舎文庫) (12/21)
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2024.12.21 Sat
森沢明夫 「癒し屋キリコの約束」(幻冬舎文庫)
少し変わった形式の小説。1章から5章までが独立した作品になっていて、最後6章と7章とエピローグは5章までの作品をまとめるようにしてクライマックスになっている作品。
物語の舞台は喫茶店「昭和堂」。この喫茶店で「カッキー」といわれている雇われ店長が、主人公の柿崎照美。そして店のオーナーの有村霧子は、店の奥でロッキンチェアに身をまかせいつもビールを飲んでいる。
この店は少し変わっていて、普通の店なら、神棚は奥に置かれるものなのだが、店の入り口のレジ横に置かれ、その隣には賽銭箱が置かれている。コーヒーやジュースだけでは店は持たない。実は喫茶店というのは世の忍ぶ姿。困ったことやトラブルを抱えている人がやってきて、霧子に相談をする。すると霧子と喫茶店にやってくる常連が、その相談を受けてたちまち解決してあげる。相談の依頼主は、その対価として賽銭箱にお金を奉納するという具合になっている。
そのトラブル、相談が最初の5作品で描かれ、最後の2作品で照美と霧子の過去から今までの辛い悲しい物語が描かれる。
それから、面白いのはそれぞれの話に見合った今では少し懐かしヒット曲が効果的に差しはさまれる。
最初の作品では嫁姑の不仲の問題解決に桐子があたる。桐子は互いのどういうところが嫌いか交代に言わせ、それがさきに尽きてしまったほうが負けというゲームをさせる。その言い合いが尽きたときに、霧子は逆に、相手の良いところ言い合いさせる。普段良いところなど思いつかないが、嫁姑は懸命になって相手の良い部分を探し出す。するとあの時優しい声をかけてくれたとか子育てを懸命に支援してくれたとか、ポツポツと思い出す。
その時、霧子が店で流す曲が井上陽水の「夢の中へ」
「さがしものは何ですか。見つけにくいものですか。・・・探すことをやめたとき、見つかることもよくある話さ」これが、見事で効果的。
そして最後のクライマックスでかかる曲は当然中島みゆきの「時代」。
その他竹内まりやの「元気をだして」少し我々より下の世代が享受した曲。
物語と曲がコラボして見事に溶け合っている。
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2024年12月 (21)
森沢明夫 「癒し屋キリコの約束」(幻冬舎文庫) (12/21)
古本読書日記 (5370)
2024年12月14日
2024.11奈良の旅③旅の後半/「旅する力」は復活したか
(東大寺の夕暮れ)
【4日目】
〇春日大社~ささやきの小路~新薬師寺~百毫寺~ならまち散策~東大寺(南大門)
「ささやきの小路」は、いにしえからの春日大社神官の由緒ある通り道だったというが、京都の「糺の森」などと比べれば少し神秘性や異界性が感じられない。
「新薬師寺」も、少し期待外れ。
そのかわり、坂道と石段をきつい思いをして登り切ったところにある「百毫寺」は、ひっそりとした佇まいやそこからの眺望も素晴らしい。
(百毫寺からの奈良盆地の風景)
そこから苦労してバス停まで歩いて、いわゆる「ならまち」へ移動。
昨年の「大和の旅」でも強い印象を持ったのだが、奈良地方は古民家あるいは古民家風のとても立派な屋敷をあちこちで見かける。
これは少なくとも私が住む福岡、九州ではほとんど見かけなくなったものだ。
ここ「ならまち」でも、いくつもの古民家・・「町屋」を見つけることができる。
そのうち3軒ほど中を見学させてもらった。
(今西家書院)
基本的に京都の「町屋」と、とても似ている。川端康成の『古都』の描写が浮かんでくる。
ホテルに戻り、ベッドに横になる。
今日も随分歩いた・・今日の観光はもう終わり・・と思ったのだが、少し疲れも取れてきたので、夕方近く東大寺南大門まで行ってみることにした。
5日旅の中3日、1日当り600円のバスフリーバスを買っているのだ。
最大限有効に使わなければ。
行ってみてよかった。
久しぶりに見る南大門の仁王像はやはり見ごたえがある。
それに門前の池も夕日に照り映えて、とても美しかった。
【5日目】
〇ホテルチェックアウト~法隆寺・中宮寺~西里~藤ノ木古墳・斑鳩文化センター~竜田神社・竜田川~JR王子駅
旅行最終日。
JRで大阪~関空に戻るのだ。
天気も上々、その途中にある、JR法隆寺駅で下車して斑鳩の里を散策しないわけにはいかない。
駅のコインロッカーにスーツケースを預ける。
バスで法隆寺へ向かう。
(法隆寺にて)
法隆寺は以前拝観したことがあるので門前付近の散策にとどめ、その隣にある中宮寺の弥勒菩薩を拝観する。
お寺自体には、ほとんど何の見どころはなくて、国宝の弥勒菩薩(半跏思惟像)と静かに対峙するのみである。
昔は確かに弥勒菩薩(マイトレーヤ)と呼ばれていたはずであるが、今は単なる「菩薩」としか表記されていない。
寺伝によると如意輪観音とされているから、それに配慮していつのまにかこうした表記になったのだろう。
しかし私には、仏陀入滅後世界を救うため思索にふけり、その人類救済に確信を持った微笑みを浮かべた弥勒の姿としか見えない。
私は「本物」にあまりこだわらないたちであるが、そうした目で見たこの半跏思惟像にはとても感銘を受けた。
世界は「陽」なのか、それとも厭世主義者が言う通り「陰」なのか・・。
この菩薩像はそうしたいろいろな考え方が渦巻く世界を隅々まで見渡したうえで、それでも「人類は救済される」というポジティブな永遠の微笑を我々に放射しているように思われた。
法隆寺門前を通り過ぎ、西に向かう。
古来からの宮大工の居住地であったという「西里」を通り抜け、「藤の木古墳」にたどり着く。
丘というほどもない、何の変哲もない土盛である。
しかし、ここからは当時「世界でも稀」なほどの、精巧な馬具などが出土しているのである。(それは昨年の飛鳥の旅で「橿原考古学展示館」で目の当たりにした)
残念ながら、やはり文字資料が全く残ってなくて、この貴重な文物が国産品だったかどうか、そもそもこのお棺に眠っていた2体の被葬者が誰であったのかも諸説あって確定的なことは確かめようがないなしい。
近くに「斑鳩文化センター」というものがあって、そういうことなどを解説員さんと熱く語ることができた。(ありがとうございました)
さて、幼きころ正月になれば「百人一首」カルタ取りをやらされたものだが、断片的にその記憶がいまだに頭にこびりついている。
その中に・・・
「ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは(在原業平)」
という一首がある。
ここから、その竜田川は徒歩圏である。
幼少期から漠然と憧れていた竜田川の「からくれない」とはどういうものであるか。
「水くくる(紅葉が水面を満たしている)」とまではいかなかったが、それなりの風情は感じた。
さて、そろそろ駅(JR法隆寺)にもどらないといけないのだが、マップで調べてみると、JR法隆寺駅よりも王寺駅の方が距離的に近いことが分かったので、そこまで歩いていくことにする。
思わぬことに、「大和川」も間近かに見ることができた。
これこそが難波から古代大和朝廷までの水運の大動脈だったのである。
歴代天皇や遣唐使、唐からの使節などはこの川を上り下りしたのだ。
何と感慨深い光景だろう。
JR法隆寺駅でコインロッカーのスーツケースを引き取り、新若宮~南海電鉄で関空、そして福岡に帰ってきたのであった。
(我が家に帰り付いて)
(旅の感想)
旅の初日を除いては毎日2万歩以上は歩いた。
山道や長距離歩行で足に「ガタ」が来たとき用に登山杖を持って行ったのだが、1回も使わなかった。
旅行4日目の朝、起きた時両ひざに少し痛みを覚えたが、湿布と痛み止めのおかげで最終日まで正常に歩くことができた。
今回の旅の目的であった「足を使う旅」「旅する力」の復活については、思っていた以上の手ごたえを感じることができた。
ただ、帰宅した翌日は疲れがどっと出て、丸1日寝込んでしまった。
その日一つ用件があったのだが、それをキャンセルしてしまったほどだ。
そしてその「後遺症」みたいなものは、旅から2週間たった今でも尾を引いている様な気がする。
若いころ登山した後「足が軽くなった」というのと真逆で、以前よりも足取りが重くなったような気がする。
前にも書いたような気がするが、「若さ」とは「回復力」であり、「鍛錬」することにより「体力増強」する身体的素地を有することである・・とするならば、やっぱり私はもしかしたら、もう「若くない」と認めざるを得ない旅だったような気もする。
今回みたいな5日程度の旅はまだまだ可能だという自信は持ったけれど・・。
果たして数週間の旅、しかも何かと苦労が多い海外旅行に耐えうるかどうか。
そして我々老人の体力と言うものは、ほとんど衰退する一方である。
今可能だったものが、数か月後も可能とは限らない。
これは是非とも〇ぬまでに実現したい今から6年前に行きそびれた「ヨーロッパ20日間」の旅が、来春可能かどうかは微妙にも思われる。
もしかしたら移動にはビジネスクラスを使い、高級ホテルに泊り、観光にタクシーを多様したら、負担はだいぶ軽減できるかもしれない。
しかし、今回の旅のように、飛行機はピーチを使い、夕食はスーパー食材という重度の「貧乏性」の私にそれができるのであろうか。(笑)
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